税理士試験は、合格すれば終わりというわけではなく、11科目の中からどの5科目を選ぶかによって、学習の進め方も、その後の就職・転職での評価も変わってくる試験です。
「まずどの科目から受ければよいのか」「実務で役立つのはどの税法科目なのか」「転職を考えたときに評価されやすい組み合わせは何か」といった疑問は、受験を検討し始めた段階から科目合格を積み重ねている段階まで、多くの方が一度は抱く悩みではないでしょうか。
本記事では、これまでの税理士試験の合格率分析や、会計事務所インタビュー・求人情報を通じて把握してきた採用現場の実情をもとに、科目の一覧から選び方、おすすめの組み合わせまでを解説します。制度の基本を確認したい方も、科目選びで迷っている方も、目次から気になる項目にジャンプしてご覧ください。
税理士試験の科目の全体像
税理士試験は、11科目の中から5科目に合格する試験です。まずは科目構成と科目選びの考え方の全体像を押さえておきましょう。
- 税理士試験は全11科目(会計2科目+税法9科目)で構成され、合格に必要なのは5科目(会計2科目+税法3科目)です(※税理士試験の概要(国税庁))
- 1科目ずつ受験・合格を積み重ねられる「科目合格制」を採用しており、合格した科目は生涯有効です(※税理士の資格取得(日本税理士会連合会))
- 令和5年度(第73回)試験から、会計科目(簿記論・財務諸表論)は受験資格の制限なく誰でも受験できます(※税理士試験の受験資格(国税庁))
- 科目選びは「合格しやすさ」「実務での使用頻度」「転職・就職での評価」の3つの判断軸で考えると整理しやすくなります
目次
- 税理士試験の科目の全体像
- 税理士試験の科目一覧(全11科目)
- 科目合格制という仕組み
- 科目選びの3つの判断軸
- おすすめの科目の組み合わせ(タイプ別3パターン)
- 転職・就職で評価される科目 — 採用側の視点
- 受験する順番の考え方
- よくある質問(FAQ)
税理士試験の科目一覧(全11科目)
税理士試験の11科目は、大きく「会計科目」と「税法科目」の2つに分かれています。会計科目は必須、税法科目は9科目の中から選択する仕組みになっており、この区分を理解しておくと科目選びの見通しが立てやすくなります。まずはそれぞれの区分と、選択のルールを確認しましょう。
会計科目(簿記論・財務諸表論)— 必須の2科目
会計学に属する科目は簿記論・財務諸表論の2科目で、いずれも必須科目です。受験者は原則としてこの2科目を含める必要があります(※税理士試験の概要(国税庁))。
簿記論は計算問題の正確さとスピードが問われる科目、財務諸表論は理論と計算の両方が出題される科目とされており、税理士試験を目指す多くの人がまず取り組む入口の科目です。この2科目は税法科目の学習内容とも重なる部分が多く、先に会計2科目の土台を固めておくことで、その後の税法科目の理解もスムーズになりやすいといわれています。
税法科目(9科目)と選択のルール
税法に属する科目は次の9科目です。
- 所得税法
- 法人税法
- 相続税法
- 消費税法
- 酒税法
- 住民税
- 事業税
- 固定資産税
- 国税徴収法
このうち3科目を選択して受験しますが、自由に組み合わせられるわけではありません。所得税法・法人税法のいずれか1科目は必ず選択する必要があり、消費税法と酒税法はどちらか一方、住民税と事業税もどちらか一方しか選択できません(※税理士試験の概要(国税庁))。
会計2科目+税法3科目=合計5科目に合格すると、税理士試験合格者となります。なお酒税法・住民税・事業税・固定資産税・国税徴収法の5科目は、所得税法・法人税法・相続税法・消費税法の4科目に比べて出題範囲が絞られていることから、受験生の間では「ミニ税法」と呼ばれることがあります。
会計科目は誰でも受験できる(令和5年度からの緩和)
かつて税理士試験は全科目に受験資格が定められていましたが、令和5年度(第73回)試験から、会計学に属する科目(簿記論・財務諸表論)は受験資格の制限なく誰でも受験できるようになりました。税法科目については引き続き、学識・資格・職歴のいずれか一つの受験資格が必要です(※税理士試験の受験資格(国税庁))。
受験資格の詳しい要件や、税理士になるまでの流れは税理士になるための条件と登録までの流れで解説しています。
科目合格制という仕組み
税理士試験には、5科目すべてに一度で合格する必要がなく、1科目ずつ合格を積み重ねていく「科目合格制」という仕組みがあります。
一度合格した科目に有効期限はない
税理士試験は科目合格制のため1科目ずつ受験でき、合格した科目は生涯有効です(※税理士の資格取得(日本税理士会連合会))。そのため、働きながら数年かけて5科目をそろえていくという受験スタイルも一般的です。
一年に1科目ずつ、あるいは余裕のある年に2科目まとめて受験するなど、ライフスタイルや仕事の繁忙期に合わせてペースを調整しやすい点は、他の一発合格型の試験にはない税理士試験ならではの特徴といえます。
大学院修了による科目免除(概要)
大学院を修了することで、試験科目の一部が免除される制度もあります。
平成14年4月1日以降に大学院へ進学した場合、会計学・税法それぞれの分野でいずれか1科目に自力で合格したうえで、修士の学位等取得に係る研究について国税審議会の認定を受けると、当該分野の残りの科目(会計学なら残り1科目、税法なら残り2科目)が免除されます。
学位を取得すれば無条件で免除されるわけではなく、分野ごとに1科目は自力での合格が前提となる点に注意が必要です(※税理士試験に関するQ&A(国税庁))。
科目選びの3つの判断軸
科目選びで悩む方は多いですが、判断軸を整理すると選びやすくなります。ここでは「合格しやすさ」「実務での使用頻度」「転職・就職での評価」の3つの軸から考えます。
判断軸1: 合格しやすさ(科目による差)
受験者数に対する合格者の割合(合格率)は、科目によって差があります。令和7年度(第75回)は、財務諸表論の合格率が31.9%だった一方、消費税法は10.1%と、科目によって大きな差があります(受験者数ベース)(※令和7年度(第75回)税理士試験結果(国税庁))。
ただし、合格率は年度によって変動するため、単年度の数字だけで「合格しやすい科目」を決めるのは避けたほうがよいでしょう。また、科目ごとに理論と計算の出題比率や暗記量のバランスが異なるため、合格率の高さだけで自分に合う科目かどうかを判断できるわけでもありません。
合格率のより詳しい推移や科目別のデータは税理士試験の難易度とは?合格率の推移と科目別データで徹底解説で詳しく整理しています。
判断軸2: 実務での使用頻度
実務での使用頻度も、科目選びの大切な判断材料です。
多くの会計事務所は法人の税務顧問業務を主な業務としており、そこでは法人の税務申告に関わる法人税法と消費税法、個人事業者の確定申告に関わる所得税法の知識が使われる場面が多くなります。
一方、相続税法は相続税専門の事務所や資産税に力を入れる事務所で使用頻度が高く、一般的な事務所では活用の機会が限られる場合もあります。
合格しやすさだけを基準に選ぶと、実際に就職・転職した先で使う機会が少ない科目に時間をかけてしまうこともあるため、「その科目の知識を実務でどれくらい使うか」という視点もあわせて持っておくと、科目選びの後悔が少なくなります。
科目ごとの実務との結びつきや、実際に合格した方の勉強の進め方は合格者に聞く!税理士試験の勉強法 科目別まとめでも紹介しています。
判断軸3: 転職・就職での評価
転職・就職での評価は、会計事務所の採用担当者が実際にどの科目を重視しているかという視点です。
合格しやすさや実務での使用頻度と重なる部分もありますが、「どの科目に合格していると採用時に評価されやすいか」は、受験者自身の感覚だけでは把握しにくく、採用現場の情報が特に役立つ判断軸でもあります。
この点については「転職・就職で評価される科目 — 採用側の視点」で詳しく解説しています。
おすすめの科目の組み合わせ(タイプ別3パターン)
ここまでの判断軸を踏まえて、実際にどんな組み合わせが評価されやすいのかを、タイプ別に3パターン紹介します。いずれも会計2科目(簿記論・財務諸表論)は共通で、残る税法3科目の選び方によって特徴が変わります。
3パターンとも法人税法・相続税法・所得税法・消費税法のうちいずれか3科目を組み合わせる形になっており、どれも転職・就職の場面で評価されやすい構成です。
オールラウンド型: 簿記論・財務諸表論・法人税法・所得税法・消費税法
最も汎用性が高く、多くの会計事務所で評価されやすい組み合わせです。
この5科目は最も使用頻度が高く、また最も多くの会計事務所で使われている知識に関連する税理士試験科目で構成されています。会計事務所の大多数は法人の税務顧問業務を主な業務としており、そこで必要とされるのは、法人の税務申告に利用される法人税法と消費税法の知識、そして個人事業者の確定申告に利用される所得税法の知識です。
特定の分野に強みを絞る前の段階で、まず選択肢を広げておきたい方や、将来的にどの分野に進むかまだ決めていない方に向いています。
相続分野特化型: 簿記論・財務諸表論・相続税法・所得税法・消費税法
相続税申告を専門とする会計事務所で特に評価される組み合わせです。
相続税法は相続税申告に必要な知識を網羅するため高く評価されます。加えて、資産家や富裕層、不動産オーナーの確定申告に携わる機会が多いことから所得税法の知識が必要とされ、不動産管理会社などの資産管理法人の税務申告を行うケースもあるため消費税法も評価されます。
オールラウンド型の法人税法の代わりに相続税法を選ぶ形になるため、法人の税務顧問業務よりも個人の資産・相続案件に関わりたい方、将来的に相続・資産税分野でのキャリアを考えている方に向いています。
資産税・コンサルティング型: 簿記論・財務諸表論・法人税法・相続税法・消費税法
組織再編や事業承継といった高度な税務コンサルティングに取り組む会計事務所で評価される組み合わせです。
これらの業務は株式の移転や株価評価、相続対策、会社法の知識まで含む複合的で高度な知識が求められます。法人税法と消費税法は法人向けコンサルティングに不可欠な知識であり、相続税法は組織再編や事業承継に伴うオーナー経営者の相続対策・株価評価に関連した業務で評価されます。
所得税法の代わりに相続税法を組み込む形になるため、オールラウンド型・相続分野特化型のどちらとも重ならない、より専門性の高い分野を志向する方に向いた組み合わせです。
転職・就職で評価される科目 — 採用側の視点
ここまでは受験者の立場から見た科目選びの考え方を紹介してきましたが、実際に転職・就職を意識するなら、採用側がどの科目をどう見ているかという視点も欠かせません。
会計事務所名鑑では、事務所インタビューや求人情報の蓄積を通じて、採用現場が科目合格をどう評価しているかを見てきました。ここでは実際に評価されやすい税法科目と、科目合格の段階での評価について紹介します。
評価の軸になる税法科目は法人税法・相続税法・消費税法
転職・就職で特に評価されやすい税法科目は、法人税法・相続税法・消費税法の3科目です。
法人税法は、法人税関連の知識がどの会計事務所でも必要とされるため、最も評価される科目とされています。相続税法は、相続税・資産税を専門とする会計事務所では必須級の評価を得る一方、一般的な会計事務所では評価が限定的な場合もあり、相続に強い会計事務所への転職を目指す場合はほぼ必須の科目といえます。消費税法は、一般企業向けの会計事務所では法人の消費税対応に、資産税専門の事務所では不動産・資産管理法人関連の税務に必要とされるため、オールラウンドに評価されるのが特徴です。
会計事務所への転職・就職では、難易度の高い科目に合格しているほど評価される傾向がある一方、早く官報合格したいという気持ちだけで難易度の低い科目に偏ってしまうと、実務で評価されにくい組み合わせになってしまうこともある点には注意が必要です。
年収帯や働き方の実例は税理士の年収の現実、事務所規模ごとの特徴は大手・準大手会計事務所とはでも紹介しています。
科目合格の段階でも評価される
税理士試験は5科目すべての合格(官報合格)までに時間がかかるため、科目合格の段階でも一定の評価を受けられるかどうかは、多くの受験者にとって気になるところです。
会計事務所の採用基準を見ると、BIG4税理士法人では科目合格者の場合、3科目以上の合格に加えて法人税法など難易度の高い科目に合格していることが目安とされています。
独立系大手・準大手の会計事務所でも同様に3科目以上の合格者や、法人税法など難易度の高い科目の合格者が好まれる傾向があります。
その他の大手会計事務所では2科目以上の合格者が採用の目安とされることが多く、最低2科目以上、できれば3科目以上の科目合格と3〜5年以上の実務経験があれば、採用の可能性が広がります。
つまり、5科目すべてに合格していなくても、事務所の規模や求める人材像に合った科目数・科目構成であれば、転職・就職の選択肢は十分にあるということです。
事務所タイプ別の採用基準の詳細は大手会計事務所が採用したい人材とは?で解説しています。
受験する順番の考え方
科目をどの順番で受けるかを考えるときは、「取得科目数が多いほど評価される」「難易度の高い科目ほど評価される」という2つの特徴と、自分が目指すキャリアを踏まえて決めるとよいでしょう。
最初に取り組むのは、簿記論・財務諸表論の会計2科目が一般的です。これらは税理士試験における必須科目であり、会計事務所業界への就職でも合格が前提となることが多いためです。
次に税法科目を選ぶ段階では、実務での使用頻度が高く多くの会計事務所で評価されやすい法人税法が候補になります。相続に特化した事務所を目指す場合は、相続税法の取得が必須になることも少なくありません。
ただし、法人税法や相続税法は合格難易度が高めの科目でもあるため、これらに注力し続けて不合格が続くと、合格科目数が増えず評価も高まらないというリスクがあります。
そのため、消費税法や所得税法など評価が高く比較的取り組みやすい科目と並行して取得を進める受験者も多くいます。難易度の高い科目に挑戦し続けるか、確実に合格できそうな科目から積み上げるかは、働きながら受験するか専念して受験するかといった学習環境や、目指すキャリアによっても変わってくるため、自分の状況に合わせて柔軟に見直していくことをおすすめします。
受験する順番の考え方をより詳しく知りたい方は税理士試験科目はどの順番で取得するのが効果的?で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 税理士試験の科目は全部で何科目?
A. 税理士試験の科目は、会計学に属する2科目(簿記論・財務諸表論)と税法に属する9科目を合わせた全11科目です。このうち会計2科目+税法3科目の合計5科目に合格すると、税理士試験合格者となります(※税理士試験の概要(国税庁))。11科目・5科目という数字と、税法9科目からの選び方は「税理士試験の科目一覧(全11科目)」で詳しく解説しています。
Q. 最初に受けるべき科目は?
A. 簿記論・財務諸表論の会計2科目から始めるのが一般的です。いずれも必須科目であり、会計事務所業界への就職でも合格が前提とされることが多いためです。この2科目は税法科目の学習内容とも重なる部分があるため、先に取り組んでおくとその後の学習にもつながりやすくなります。順番の考え方は「受験する順番の考え方」で詳しく解説しています。
Q. 一番合格しやすい科目は?
A. 合格率は年度によって変動するため、単一の科目に絞って断定することはできません。令和7年度(第75回)は財務諸表論の合格率が31.9%と高い水準でした(※令和7年度(第75回)税理士試験結果(国税庁))。最新の試験結果データや科目別の詳しい分析は税理士試験の難易度とは?合格率の推移と科目別データで徹底解説で整理しています。
Q. 科目合格に有効期限はある?
A. ありません。税理士試験は1科目ずつ受験・合格できる科目合格制を採用しており、合格した科目は生涯有効です(※税理士の資格取得(日本税理士会連合会))。一度受かった科目を再受験する必要がないため、時間をかけて着実に5科目をそろえていくことができます。
Q. 働きながらの場合、1年に何科目受けるべき?
A. 決まりはなく、学習に充てられる時間に応じて1科目ずつでも受験を続けられます。取得科目数が多いほど転職市場での評価も高まりやすい傾向がありますが、複数科目を並行して受験すると1科目あたりにかけられる時間が減るため、無理のない範囲で着実に科目を増やしていくのが現実的です。学習の進め方の実例は合格者に聞く!税理士試験の勉強法 科目別まとめでも紹介しています。









