
税理士がインターネットで情報発信する際、近年最もよく取り上げられるテーマが税務調査におけるAIの活用です。
税務当局がAIを活用して税務調査先を選定している、といった税務雑誌の記事が増えています。
その情報を基に、AIがすぐに申告の問題点を発見するため税務調査リスクが大きくなっている、と多くの税理士が解説しています。
実際、先日とあるインターネット番組において、著名な税理士YouTuberの方が、「最もAIを活用しているのは国税庁で、税務調査で大きな成果を上げている」と発言していました。
そして、その発言を聞いた他のコメンテーターが「本当に怖いですね」とコメントしていました。
このような情報が氾濫することで、より申告には気を付けないといけない、といった世論が形成されていく訳ですが、それこそ税務当局が最も望んでいる状況です。
世間がこのように思えば思うほど、納税者は税務調査に対する恐怖感が増えることになり、脱税はもちろん、申告ミスや、税務当局が嫌う安易な節税も結果的に減ることになるからです。
税務当局はKSKシステムで決算書の変動状況などを分析して、税務調査リスクが大きそうな納税者を優先的にピックアップしています。
しかし、現職時代を振り返りますと、このような方法で選定された税務調査先について、申告もれは必ずしも多くありませんでした。
会計監査もない中小零細企業の決算は適当なことが多いため、その決算書を細かく分析したからといって、申告もれの有無について正確な情報が得られるとは限りません。
実際、多額の追徴税額が発生した税務調査先は、KSKの分析ではなく、調査官が泥臭く集めた資料情報に基づくものや、もしくは完全な偶然によることがほとんどでした。
税務調査の選定は当たり外れの多い世界で、本来自動化できるようなものではありません。
加えて、選定時に想定された問題点についても、外れることが多いです。
このため、税務調査先をAIで選んでも、申告もれの効率的な把握に必ずしもつながる訳ではないと考えています。
「AI」という用語から「効率化」を連想して税務調査が厳しくなると怯えてしまう方も多いですが、むしろ怯えさせることが税務当局の目的のように思います。
税務調査のAI活用と聞いて、思い出すのがe-taxの導入です。
e-taxの創設時、税務当局は非常に便利ですと声高に宣伝し、利用促進のための営業もしていましたが、実態はとても不便なシステムで、メリットがないものでした。
e-taxの創設時にはこのような形で真実が歪められていた訳で、怖いイメージのある税務調査のAI活用も、その実態は全く怖くないように考えています。
AIという用語に踊らされず、脱税などの不正をしない申告に心がけていれば、従来と同様、税務調査は怖くありません。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。











