
令和6年からスタートした相続時精算課税制度の要件緩和により、相続時精算課税制度を適用する納税者が増えたといわれています。
しかし、相続時精算課税制度の最大のリスクである、時効がないという点については、まだまだ納税者の認知が甘いと言わざるを得ません。
相続時精算課税制度は、それを選択してから行われる、親等から受ける生前贈与により取得した財産について、贈与者の相続時の相続財産に加算して相続税を計算する制度です。
このため、贈与のタイミングがいつであろうと、相続税として課税される訳です。
この時効がない点から、大きな問題になるのが借地権の課税です。
所有する土地を貸す場合、所定の権利金を借主から貰わない場合、借地権を借主に贈与したとして取り扱われます。
借地権の価額は、土地の価額の一定割合とされていますので非常に大きな金額になり、結果としてこの課税がなされると、多額の贈与税が課税されることになります。
このような怖い課税ですが、実務で問題になることはそこまで多くありませんでした。
特例で課税されない場合があることに加え、借地権を贈与したとされるタイミングは借地権を設定したタイミング、すなわち土地の賃貸借契約の成立時点とされるからです。
借地権を設定しても登記がなされる訳でもありませんから、賃貸借契約が成立しても税務当局が気付かず、暦年課税の贈与税の時効である6年を経過したケースが多くあります。
それに止まらず、この借地権の課税は非常に複雑ですので、調査官によってはこの取扱いに詳しくない方も多くいます。
結果として、仮に6年の時効が成立する前に調査がなされたとしても、調査官が借地権の課税に気付かない、ということも多くあります。
しかし、相続時精算課税制度を選択してしまえば、この時効が結果としてなくなる訳ですから、見過ごされてきた借地権の課税についても、相続税調査のタイミングで確実に問題になると解されます。
実際、要件緩和される前の相続時精算課税制度の適用に関する事例ですが、借地権の設定時に贈与税の申告をしなかった、相続時精算課税制度を選択した納税者について課税された事例があります。
この事例では、借地権を相続税でも申告しなかったため、相続時精算課税制度の適用財産の申告漏れとして多額の税金が課税された事例が報道されています。
それに止まらず、相続時精算課税制度を選択した場合、相続時には、贈与時に課税される金額をベースに相続税が計算されます。
贈与時に課税される、ということは贈与時に適用されている法律で計算される贈与税の金額が課税対象になるということです。
結果として、当時の贈与税の法律の取扱いも覚えておかないと計算を間違えることになります。
時効がない相続時精算課税制度にはこのようなデメリットもありますので要注意です。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。









