税務上問題になる経費の一つに、英語研修の費用があります。
少子高齢化で日本の市場が沈む中、グローバルな経営展開が必要という声や、経営のプロとしてMBAを取得すると都合がいいといった風潮があります。
このため、経営者が英語を学ぶ必要性があると言われて久しいです。
近年は翻訳ソフトやAIの発展もあり、前ほどは言われないにしても、経営者が会社の経費で英語研修の費用を経費にしようとすることは普通にあります。
現実に国際展開している中小企業であれば、英語研修の費用の経費性は原則として問題になりません。
しかし、将来に備えて英語を今から学んでおく、という意向で英語研修の費用を落とすと、税務当局は往々にして厳しい判断をします。
一例として、過去の裁決例では、歯科医を営む事業者の英語研修の費用について、経費にならないとされた事例があります。
この事例では、現に行っている歯科医という業務について、英語の必要性は高くない以上、その研修費用が業務に直接必要とは言えない、という点で経費性が否認されています。
この判断は確かに一理あり、国際展開などしていない企業が、将来必要になる「かもしれない」英語を習得するために、わざわざ従業員に研修を受けさせて高額な費用を負担するということはまずないでしょう。
従業員が同じことをやっても負担しないのに、経営者が英語研修を受ける場合には経費にできる、というのは理屈としては無理があります。
将来国際進出する可能性はあり得るとしても、現状英語を使わない業務であれば、英語研修は直接必要とまでは言えませんから、税務調査では厳しい交渉にならざるを得ません。
一方で、国税庁は職員のために、現状の職務に関係なく、将来使う可能性がある英語の研修を実施していました。
具体的には、国税庁の研修において、国際租税セミナーという研修が平成24年度まで実施されていました。
この国際租税セミナーはすべての職員が選抜試験を経て受けられる研修で、そこでは国際税務はもちろん、国際税務を読み解く上で必要になる英語の研修も行われていました。
しかし、選抜試験を通ったからと言って、国際租税セミナーを受けた職員の多くは英語を使う国際税務に関する業務に就くことはありませんでした。
例えば、国外財産の徴収は極めて難しいこともあり、徴収担当に国際税務の知識はほとんど必要になりません。
しかし、このセミナーは徴収担当も受講できました。
そうなると、そもそもこのセミナーが税務当局の大部分の職員にとって、本当に必要不可欠と言えるのか、疑問もありました。
実際、仮に納税者が同様の研修を実施すれば、その費用について、直接必要とは言えないとして、経費性を否認される可能性が極めて大きいように思います。
このため、国際租税セミナーが過去実施されていたことを踏まえ、必ずしも現状英語を使わなかったとしても、英語研修の経費性は問題にならないのではないか、と反論することも一考です。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。