
令和6年1月から本格的にスタートした電子取引のデータ保存の義務化。
義務化と言いつつ、「相当の理由」があって対応が難しければ、例外的な処理ができます。
具体的には、相当の理由がある場合、プリントアウトした紙を保存していれば、電子データを検索できるような措置を施すことなく、そのままの状態で電子保存するだけで問題ないとされています。
このため、負担がかかる訳ではありませんが、この「相当の理由」を満たしているかどうか、その判断が問題になると言われていました。
この点、調査官が本気でこの「相当の理由」をチェックすることはないと考えています。
調査官にとっては、電子より紙の方が、税務調査においては都合がいいからです。
変に電子取引のデータ保存の義務化に対応する努力をして、「もう少し努力すれば義務化に対応できたのだから「相当の理由」を認めない」と調査官からケチつけられるリスクがあります。
このため、全く努力せず、マンパワーや資金的にそもそも無理なので「相当の理由」がある、と主張した方が得と言えます。
実際、私の考えは正しいようで、とある税務雑誌に、電子取引のデータ保存の義務化に対する税務当局の調査方針が書かれていました。
調査官は細かく「相当の理由」の有無をチェックしないと解説されています。
ただし、調査官としては、「「相当の理由」はありませんが、重加算税を認めてくれれば、今回は大目に見ます」といった、税務調査の交渉材料で使うことはよくあります。
このため、義務化と言いつつ、特別な対応を何らしないことがやはり正解です。
しかし、この義務化がスタートする前は、テレビで会計ソフトベンダーのCMがたくさん流れたり、税理士youtuberが早く対応しないとまずいと声高に叫んだりしていました。
自分たちの商売にこの義務化を活かしたかったのでしょうが、特別な対応をしないことが正しいので、誤った情報を善良な日本国民に拡散していたことになります。
そもそも、改ざん防止措置や検索可能な措置を施さずに電子取引のデータを保存できる、といった今回の特例的な仕組みは大問題です。
なぜなら、データの改ざんを許すことになるからです。こんなものは税法上存在してはいけない規定なのです。
税務当局も、「相当の理由」をチェックしないという対応をする訳ですから、電子保存に係る税制はやはり課題が多すぎると言えます。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。








