実務上、その赤字を節税に使える事業所得と、そうではない雑所得の区分が問題になります。
前者は生活できるだけの所得を稼ぐ事業で、後者はお小遣い稼ぎの副業的な業務ですが、その判断は複雑です。
困ったことに、国税庁の通達により、基本的には帳簿の有無で判断する、といった取扱いが新たに定められました。
しかし、お小遣い程度の収入しかないのに、帳簿をつけるだけで事業所得となり、その赤字を節税に使うことを税務当局が許す訳がありません。
実際、この通達の趣旨解説においても、「原則として」帳簿の有無で判断するものの、個別判断するケースもあると明言しています。
このため、帳簿の有無だけではなく、過去の判例などに照らして事業所得になるかどうか、判断する必要があります。
実際、先日の裁決事例では、オートバイ用品の販売等を行う業務について、複数の細かな判断基準でこれらの所得区分が判断されました。
具体的には、
①営利性
②有償性
③継続性
④反復性
⑤自己の危険と計画による企画遂行性
⑥精神的・肉体的労力の程度
⑦人的・物的設備の有無
⑧資金調達方法
⑨その者の職業・経歴及び社会的地位・生活状況
⑩相当期間安定した収益を得られる可能性
といった基準が挙げられています。
①~④はよく言われる基準で、簡単に言えば、
「十分な利益」を「継続的」に得られるビジネスか否か、という点の判断です。
次の⑤~⑦はそのビジネスについて「労力や設備投資コスト」がかからないなら、事業でなく副業に近いため、これらもよく指摘されます。
⑧~⑩はこの事例の特有ともいえる基準です。
簡単に解説しますと、自分の給与や預金だけではなく、「事業資金の借入」などを行っていれば、リスクが大きいため事業所得と見られやすいでしょう(⑧)。
今までの「職歴や経験を基に始めたビジネス」で、それなりに「規模感」があればお小遣い稼ぎとは言い難いです(⑨)。
生活できるだけのお金を稼ぐ以上は、一時的に赤字になることはあっても、長期的には安定して収益を得られるような「計画性」が必要(⑩)といった、新しい判断基準と言えます。
とりわけ、この「計画性」という基準は今後の判断でも重要になると思われます。
というのも、この事例ではかなりの規模感はあったのに、毎年赤字が続いているのに黒字化する計画がないことが重視され、雑所得とされているからです。
このため、事業所得の赤字として申告をする上では、銀行に出すような利益計画なども作っておくべきと言えます。
いずれにしても、裁決を行う審判所も、国税庁の通達で示されている帳簿の有無を重視した判断がなされている訳ではありません。
通達の記述に騙されて、帳簿があれば事業所得でOK、などと安直な判断をする愚を行わないよう注意してください。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。